<第24章>泡になりたい

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<第24章>泡になりたい

美穂子は岡田たちが帰ったあと、 平井先生がやってきた事に気付かず 1人、病室で泣いていた。 両親にも、産めなかった子供にも 申し訳が立たない。 泡になって消えたい。 今すぐに、死んでしまいたいと思っていた。 「村上さん、大丈夫?」 気付けば平井先生が、そこにいる。 彼女は反射的に 「大丈夫です。心配かけてスミマセン。」 と応えていた。 彼は軽く呆れたように 「大丈夫やあらへんやんか。」と言う。 見透かされたようで恥ずかしかったが、 少し安心もしていた。 なぜかは知らないが、気にかけてくれている気がする。 何故だろうと思っていたら、 岡田たちを知っていて、 音成まゆことは同級生だと言っていた。 彼女の名を出したときの 先生の表情が 何とも言えない、こそばゆいような顔で 美穂子はピンと来た。 「先生、あの人のことが好きなんでしょ?」 彼の顔が赤らんだ。 渋くて整った顔が、照れたように崩れるのを見ると なんだか好感が持てた。 「好きやったよ。」 過去形か。 でも気持ちはありそうね、と思っていると 「もうあの二人には、入り込める隙間は無いよ。 今日ですっぱり諦めたわ。」と言われた。 なるほど、失恋仲間だなと思う。 二人とも失恋したてホヤホヤだった。 彼は打ち明け話のあとで 「死にたい。」 とポツリつぶやく美穂子に 「たった一人で、良く頑張ったな。」と褒めてくれた。 美穂子だって、不倫して平気なわけではない。 もちろん、人の道に外れている事をしている自覚もある。 だから、誰かに相談したり頼ったりするつもりなど 最初から無かった。 「充分、立派やと思うで。」 そう言われた時、美穂子は初めて 死ななくて良かったと実感できた。 先生の手は温かい。 涙があとから後からあふれてきて 止まらなかった。
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