<第5章>回想

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<第5章>回想

彼女、音成まゆことの出会いは 高校一年生のときだった。 特別進学クラスは1クラスしかなく、 毎年成績上位の者しか入れない。 音成まゆこと平井雅喜は、 その中でも上位一、二位を争うライバルだった。 とは言え、ライバルと思っていたのは平井だけのようで 音成はいつも、休み時間になると ファンタジーや恋愛小説を読みふけっていた。 平井はその時間も勉強に充てているのに、 彼女にはなかなか敵わない。 内心悔しい思いをしていた。 二人で先生に学級委員に任命された時、 平井は複雑だったが、 音成は迷惑そうだった。 「本を読む時間が減るやんか。」 ブツブツ言いながらも、それでも真面目に 任務を果たす彼女に、彼は好感を持った。 結局卒業するまで、その腐れ縁は続く事になる。 思えばあれが、彼の初恋だった。 平井は割と見た目も良く、 背丈もあって成績もいいので 女子にはモテていた方だったが、 音成以上に好きになれる女子がおらず、 だからと言って彼女に自分の気持ちを 打ち明ける勇気もなかった。 結局、仲のいい友達以上にはなれず 卒業の日を迎えてしまう。 それから平井は、医大へ進み 2個下の後輩と結婚してから、2年前に離婚した。 “音成は苗字、変わってないな。” もしかして、と彼の中に希望が宿る。 次の回診の担当は彼だったので、 その時確認してみようと考えていた。
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