<第29章>挨拶

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<第29章>挨拶

白のクラウンは渋い、平井に良く似合っている。 そう思いながら、美穂子は助手席で 彼の横顔を見ていた。 今日はこの足で、実家の両親に 彼を紹介するつもりだった。 15歳の年齢差を考えると不安だが、 美穂子は両親を信じていた。 実家に到着し、 玄関先で簡単な挨拶をしたあと 二人は中へと入る。 「美穂子さんとお付き合いさせてもらってます。 平井雅喜と申します。」 彼は軽く頭を下げた。 「ゆくゆくは結婚も考えていますので、 今日は美穂子さんのご両親に ご挨拶をさせてもらいに来ました。」 そう言われ、美穂子は赤くなった。 沈黙が生まれて、ドキドキしていると 父親が口を開く。 「平井さんは、初婚なんですか?」 美穂子はそう言われて青くなった。 “やっぱりバツイチは、あかんのやろうか。” 「いえ、2年前に10年結婚していた妻に 離婚を切り出され、別れています。」 彼は淡々と言った。 「向こうに新しい相手が出来てしまって。 全て私の不徳の致す所と思っています。 美穂子さんには淋しい思いはさせないよう、気をつけます。」 そう言うと、頭を下げた彼を びっくりしたように 美穂子の父親は見つめていた。 「あんた、人間出来てるなあ。」 感心したように言う。 「元の嫁さんの悪口を、一切言わんところが気に入った。 よし、美穂子はあんたに嫁にやる!」 美穂子と母親が飲んでいたお茶を吹き出した。 何というテンションだ。 「お父さん、ゆくゆくはって事は、 今すぐやあらへんよ?」 母親がそう言うが 「何を言っとんねん。美穂子はもう31やぞ。 すぐにでも、もらってもろうたらええ。 こんなええ人なら、大丈夫やろ。」 「まあ、そうやろうけど・・・・。」 母親がそう返すと、二人は平井の方に向き直り 同時に頭を下げた。 「美穂子をよろしくお願いします。」 「・・・こちらこそ、よろしくお願いします。」 平井がそれに合わせて頭を下げる。 なんだか当の美穂子を差し置いて、 とんとん拍子に進んでいるが “まあいいか。”と彼女は思っていた。 ちらりと平井を見ると、彼と目が合う。 どちらからともなく、二人は微笑みあった。
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