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家族っていう存在
「たーくん遅いよ・・・」
病院に着いた時には、妻と娘は一緒に居なかった。
「ごめん、音羽は?」
「いま治療室にいる・・・。もう少し遅かったら危なかったって」
「よかった。無事だったんだな」
安心して一息ついた時、奥さんー和奈の顔色が変わった。
「なんですぐに出てくれないの?何回も電話もしたのに・・・」
「そんなこと言ったって仕事なんだからしょうがないだろ」
「・・・たーくんはいっつもそうだよね。私が破水した時だってそう。仕事でいなくて・・・。そのくせ自分が結石になった時は騒ぎまくって救急車まで呼ばせた。私は臨月でしんどかったのに・・・」
「おい、今それは関係ないだろ」
急に昔の話を持ってこられた。確かに全部俺が悪いが今言う話ではない。こいつにはこういうところがある。
「馬淵さーん。先生からお話があるのでいらっしゃってください」
その時、仲介のに入るかのように、看護師さんが声を掛けてきた。
職業柄か『先生』という言葉にやたら反応してしまう。不思議だよな・・・こんなに立場は違うのに同じ『先生』なんだから。
様子見で今夜だけ入院することになったけど、音羽は多少顔が赤いものの元気そうだった。
「じゃあ、私は病院に残るから戸締りよろしくね」
「え?それなら俺も一緒に・・・」
「だめ、あんたは明日も仕事てしょ。どんだけ着信しても無視するくらいのだ~いじな仕事がね」
「・・・う゛」
もとはと言えば全部校長のせいなんだけど。なんて言ったらいいわけみたいになってしまうのだろうと思い、俺は口を閉じた。
「わかった。じゃあ帰るよ。和葉も風邪ひくなよ」
「うん」
そう言って、カバンからスマホを取り出そうとしたとき、思い出した。
「なあ、ちょっとだけいいか?」
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