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決意の日
リビングのソファーでタブレットを見ていた仁の前のローテーブルに、『さきいか』と、きれいにラッピングした箱を並べて置く。
さきいかにはリボンと、お気に入りのマステを二ヶ所に貼った。それぞれの名前に、ハートを付けて書いた。
「・・・」
斜め前に立つ私を、無表情で見上げる仁。
「会社に入ってからずっと、渡瀬営業部長殿は甘い物が苦手だそうだから。冷静沈着、クールな表情を崩さない。コーヒーはブラック、お酒を飲んでも全く乱れない。そんな渡瀬部長は、甘い物は食べないはずだ!てね」
滔々と語る私にも、表情を変えない仁。まるで、美しい彫刻のようだ。
「もう一つは、仁の好きなナッツ入りのシリアルチョコバーです。……仁の事、初めて出会った小学一年からずっと大好きでした!」
仁の事を真っ直ぐに見つめたまま告白した私に、仁の片眉だけが、わずかにピクリと上がった。
「仁に言われるまま、高校、大学を同じ学校にしました。前に言われた『俺が重役になる時は、秘書はめいがいい』の言葉を鵜呑みにし、秘書検定を取り、仁のお父さんの会社に入社しました。大学卒業後、仁が東京の大企業に就職した時はびっくりしたけど、『五年間勉強してくるから』の仁の言葉を信じて待ちました」
深く息を吐く。お互いに、目は逸らさない。
「手を繋いだのも、キスもその先も、私の初めては、全部仁です。仁のマンションの鍵も渡されて、私、かなり期待してた!……でも、もう待たない。疲れちゃったから。……仁にバレンタインのチョコをあげるのも、今年が最後。仁、今までありがとう!」
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