第二十九章 誘惑

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俺の事を好きかは別やから、ずっと友達としてそばにいたんや。」 ゲイだ、と言うと すぐに自分を『性の対象』だと思い込む男も多い中、 ちゃんとソウの人格にまで 踏み込んで考える岡田の思慮深さは さすがだと彼は改めて思った。 「俺な、ずっと拓の事が好きやったんやで。」 今なら言っても良いだろうと 彼はさらりと告白した。 「大学でお前に出会った時に、 生まれて初めて性欲というものを知ったんや。」 フッと笑う。 岡田はそんな彼を黙ったまま 真剣な顔で見つめていた。 「お前に抱かれたら、 どうなってしまうんやろうって、ずっと思ってた。」 彼の、浅黒く引き締まった筋肉質な身体は 華奢なソウとは違う。 シャネルの香りと混ざった体臭を 誰より近くで嗅いでみたかった。 “一度でいい。” 彼に抱かれたら、 その思い出だけで生きていける。 とも思っていた。 「なぁ、試してみるか?」 岡田がボソッとそう言うと、 二人の間に流れる空気が張り詰めた。 「え?」 ソウが目を丸くする。 涙の跡はもう乾いていた。 岡田の言っている意味が分からずに ポカンとしている。 「まゆこは今夜帰ってこん。 悪い事やとは重々承知してるけど、 一度俺に抱かれたらどうなってしまうのか、 本当に試してみるか?」 すうっと目が細められ、 岡田はソウのいるカウンターへ近付いてくる。 「最初は興味本位で調べたことやけど、 ずっとお前と試してみたかってん。 俺かて大学生の時は、 ソウの事が好きやったんや。」 ソウの心臓が急に高鳴り出した。 嘘やろ?と思う。 迫ってくる岡田から逃げるように 後ずさりするソウは、 カウンターの奥まで追い詰められた。 ・・・もう逃げられない。 岡田の顔は、相変わらず綺麗だ。 夜になり、髭がうっすらと伸びてきていて 少し悪っぽくなっているのも良い。 深い瞳の色が一層濃さを増して、ソウを捕らえる。 何だか頭が、クラクラしてきた。                       ともだちのうた(前編) 完 
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