第一章 ソウの過去

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第一章 ソウの過去

佐藤颯ことソウは、いつものように店の仕込をしながら 考え事をしていた。 親父から引き継いだ小料理屋は、創業30年になる。 ソウが引き継いでからは丸6年が経過した。 本当は獣医になりたかったソウは、 幼いころから、父に夢について話していた。 母が幼少のころ亡くなり、 兄弟のいないソウを 本当は跡継ぎにしたかったと思うのだが、 父は彼の意思を尊重し、 何も言わずに、 獣医科の大学に進学させてくれたのだった。 親1人子1人。 大学に通いながらも彼は、 父の仕事を手伝い、父の味は何となく覚えてはいた。 昔から料理をするのは嫌いじゃなかったし、 一度食べたものを再現できる、舌と感覚の持ち主だったから 趣味で色々作る事はある。 だが、プロになるつもりは毛頭無かったのに。 いざ大学を卒業する年になり、 父親が急に倒れてしまった。 予兆など無かった。 突然死に近い状態で、 夜中に苦しみだしたかと思ったら、 救急車も間に合わず、 朝には冷たくなっていた。
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