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ライトに照らされた魚人間たちは、ドローンの横や下に回り込んだらしい。俺の椅子の下にも三人いた。連中は、そこを、ガラスの壁があるように撫でまわしていたのだが、ややあって、ゆっくりと、手を伸ばす。
水浸しの床から、強烈な腐臭と共に、水かきのついた、ぬめりを帯びた手が現れ始めた。ついで、毛髪の無い頭の半分が現れる。
明かりを点けろ、と誰かが怒鳴る。バタバタと走り回る音。そしてべちゃべちゃと走り回る音。カスタネットを打ち鳴らしたみたいな甲高い連続音。それが、目の前に半身を現した、魚人間の鳴き声だと気付くのに時間はかからなかった。
お前たちは生贄だ、と誰かが叫んだ。
スマホのライトが一斉に、その人物を照らす。
あの占い師だった。
その横には、ニタニタ笑いを浮かべるオーナー。
「悩み深き愚か者どもよ! 貴様らは大いなる神の、復活の生贄となる。さあ、境目から深きものどもがやって――」
数人の魚人間たちが、床から跳ねあがって二人に飛びかかった。
どうして、何故という声を聞いた気がしたが、放り投げられた丸い塊がテーブルの上で跳ね、俺の足元に転がってくると、もう確認のしようがないということが判った。
占い師の生首は、海水が揺れる度に右に左にと転がった。
俺は辺りを観察した。
ドローンは、階段を登っていた。
端から端まで見渡せない、とんでもない大きさの階段だ。
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