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その遥か向こうに――何かがちらりと見えた。
瞬間、俺の中を嵐が吹き狂った!
あれは――いや、あれだ!
上や下、周囲のスクリーンから次々と魚人間が這いだしてくる。
ホールのあちこちで悲鳴が上がる。ボキボキと何かが折れる音、びしゃりと何かがぶちまけられる音、金属音、そんな物が俺の耳を通り過ぎて行く。
ここは地獄だ。
だが、地獄には興味が無い。
あれに比べれば、どうでもよいのだ。
俺は、画材を入れた鞄をしっかりと肩にかけると、正面のスクリーン、ドローンの進行方向へと走った。
ぐんぐんと迫る階段。血と魚の臭いが渦を巻き、巨大な烏賊の足のような物が、ぬらぬらと座席を押しのけ、ホールに現れる。
だが、止まるつもりは微塵もない。
連中が通り抜けられるなら、俺にだって可能なはず。
あと数歩、というところで、魚人間が組み付いてくる。
俺は身を屈めた。そして、その瞬間、階段の遥か上に、先程心を一瞬で奪われた物――『巨大な閉じている門』を、はっきりと見た。
俺は叫びながら、スクリーンに体当たりをした。
堅い石の感触を体に感じながら、俺は立ち上がった。
目の前には、未だに閉じた、海藻の絡まった巨大な門がある。
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