前半

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 俺の絵は我流であるから、美術教室に通ってみれば、前と同じように絵を描けるヒントが得られるのではないか、と考えた。  美術教室の講師は、遠まわしに俺の絵は下手だと言った。  それは判っている。  バランスも配色もメチャクチャだ、と絵を逆さまにして講師は言った。まずはデッサンからだ、と。  デッサンをやってみる。  石膏やリンゴを前にして、あまりのくだらなさに溜息が出た。  だが、基礎をしっかりやることにより、絵は飛躍的に上達する、と講師は頑なに言う。  だから、そういうことを習いに来たのではない。最初にそう言ったではないか。俺は『心を動かされて絵が描ける状態にどうやったら戻れるか』のヒントを習いに来たのだ。  絵を上手くなりたい、とは微塵も思わない。  大体、絵の良し悪しを、何故他人が決めるんだ? 絵は人に見せる物か? 絵は自分の内面を通して世界を表現する事だろう?  いや、それよりなにより、楽しいから絵を描くんだろう?  講師は言う。  絵は人に視てもらって初めて完成するものだ。そうやって、初めて絵は上達するのだ。  だから! と俺は声を荒げた。  上達する必要なんてあるのか? 誰かと競い合うわけでもないのに、上達する必要なんてあるのか?  なるほど、と講師は言った。     
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