前半

4/4
前へ
/12ページ
次へ
 もしかすると、俺がやっていることは、『そういうこと』なのではないのか?  描ければ、もう死んでもいいと思えるような『何か』を探し続ける。  つまり、俺はあがけばあがくほどに、死に向かって走ることになっているのではないか?   上等である。   俺は走り出した。  山に登り、滝を這いあがり、海に潜り、火事場を走り抜け、震災の跡地を歩く。  だが、駄目だった。  いよいよ人が死ぬ瞬間を見なくてはならないのか、とぼんやりと考えたが、それは最初から論外だと気がつく。  なにしろ、両親が病気で他界する場面も見ているし、ネットでその手の動画は結構見ている。大学前で轢き逃げがあった時には、現場に出くわした上に、救急車を呼んだ。辺り一面血だらけで、轢かれた女性はその場でゆっくり死んでいった。  それを描きたいとは、頭の隅にも浮かばなかったのである。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加