後半

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 あの占い師が言っていた、刺激を受けるイベントとのことか、と軽食を頼みしばらく待つと、オーナーと名乗る男がマイクを持って現れた。  皆さま本日はようこそ、と通り一遍の挨拶が終わると、男はイベントの説明を始めた。  ポイント・ネモというものがある。  南緯四十八度某、東経百二十三度某。太平洋到達不能点と呼ばれ、あらゆる陸地から最も離れた海の一点を指す。そこは人工衛星を落下させるのに、最も適した場所なのだそうだ。  本日は、と男は声を張り上げる。 「某国の許可を得て、ポイント・ネモの海底にドローンを投入いたしました!」  男の自慢げな声と共に、映写機のような物がホールの真ん中に設置され、窓が全て閉められ、カーテンの代わりにスクリーンが周囲に張られる。 「今から、この場は海底になるのです! ジュール・ベルヌの世界にようこそ!!」と男は嬉しそうに笑う。  ホールが暗くなった。  と、天井、壁、そして床と三百六十度全てに、仄暗い海底の映像が流され始める。 「プロジェクトマッピングと新開発の技術を組み合わせ、リアルタイムの映像を会場全体に投影し」――男の説明は、客達の歓声に掻き消された。  成程、これは面白いイベントだった。  俺は座った椅子は、ドローンの進行方向と同じだった。つまり、小型のガラス球に入って海底を散歩しているような感じなのだ。     
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