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椅子に深く座り、目を細めると、古典SF冒険小説の中に入り込んだような気分になってくる。
ライトに照らされながら、足元を泳いでいく魚の群れに、黄色い悲鳴を上げる女性達。スマホのフラッシュ。スタッフの足音。時折、ごぼりごぼりと聞こえる泡の音。
珈琲を片手に、俺は溜息をついた。
まあ、楽しめたが――それだけだった。
凄い技術ではある。だが、心は動かなかった。このフロアに俺以外誰もいない状態でも、そう思ったろう。
鞄の中に入れてある、スケッチブックや画材の出番は無さそうだ。
帰るか、と俺は腰を浮かせた。
その時だった。
なんだ、あれは? と誰かが囁いた。
次々と囁きが増していく。
あそこの上の方――人工物が――衛星だろ――いや――なんか――ライトに照らされて、ちらっと見えたんだけど――すごく大きい――
階段みたいなものが――
ごとん、と大きな音が響いた。
ドローンが何かがぶつかったらしく、周囲の映像が一瞬乱れる。
俺は腰を降ろすと、辺りを見回した。
椅子の下を、藻が所々に生えた巨大な岩が通過していく。
そこに、何かが掘り込んであった。
自然物ではない。例えるなら梵字だが、それよりも歪で、生理的な嫌悪感を抱かせる、裸の男女が躍っているような文字のような物。
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