後半

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 椅子に深く座り、目を細めると、古典SF冒険小説の中に入り込んだような気分になってくる。  ライトに照らされながら、足元を泳いでいく魚の群れに、黄色い悲鳴を上げる女性達。スマホのフラッシュ。スタッフの足音。時折、ごぼりごぼりと聞こえる泡の音。  珈琲を片手に、俺は溜息をついた。  まあ、楽しめたが――それだけだった。  凄い技術ではある。だが、心は動かなかった。このフロアに俺以外誰もいない状態でも、そう思ったろう。  鞄の中に入れてある、スケッチブックや画材の出番は無さそうだ。  帰るか、と俺は腰を浮かせた。  その時だった。  なんだ、あれは? と誰かが囁いた。  次々と囁きが増していく。  あそこの上の方――人工物が――衛星だろ――いや――なんか――ライトに照らされて、ちらっと見えたんだけど――すごく大きい――  階段みたいなものが――  ごとん、と大きな音が響いた。  ドローンが何かがぶつかったらしく、周囲の映像が一瞬乱れる。  俺は腰を降ろすと、辺りを見回した。  椅子の下を、藻が所々に生えた巨大な岩が通過していく。  そこに、何かが掘り込んであった。  自然物ではない。例えるなら梵字だが、それよりも(いびつ)で、生理的な嫌悪感を抱かせる、裸の男女が躍っているような文字のような物。     
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