何度目の夏

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「今年も来たよ」 「うん。毎年恒例だものね」 もう一年経ってしまったのか。時が過ぎるのは案外早いものである。目の前で向かい合っている青年の身長と自分の身長を比べ、その月日をようやく実感できる。 「背、かなり伸びたね。前は私の方が大きかったのに」 少し強い風が吹き、青年のシャツが靡いた。青年はその風を心地よさそうに受けると、浅緑と純白、そして鮮やかな白桃色の花束を私の前に置き、その場に腰を下ろした。 「綺麗だね」 「この色が似合ってたと思って」 「ふふ、よく覚えてくれてるじゃん。ていうか、君がこの色似合ってるって言ってくれたからこの色の服ばっかり着てたんだよ?」 「俺が言ったんだよな。優衣はその色が好きな訳じゃなかったっぽいけど」 「そうだよ~? 深い青とか、燃え盛るような紅蓮が好きだったのに。誰かさんのせいで淡い色ばっかり着ることになっちゃってさ~」 まぁ、それも悪くなかった。大好きなこの人が好きだと言ってくれるのだから。可愛いとか、好きとか、そう言われることに必死になってオシャレをしていたことを昨日のように覚えている。 あの三色は、彼が特にお気に入りだったものだ。絶対に「似合ってる」と言ってくれた三色。 「まぁ、だからこそこの色が嫌いになりかけたけど」 そう言った彼の表情に翳りが差す。昔の快活な彼からは考えられないような感情が見え隠れしている。悲しみ、悔しさ、後悔。そんな、やるせない感情。 「……ごめんね。私が不注意だったばっかりに。君にこんな想いをさせちゃって」 彼は俯いたまま、こめかみを押さえた。彼には似合わない一筋の涙が頬を伝う。 毎年、この涙を見る。私が流させる涙だ。彼は泣く度に自分を責める。私にはそれを止める術がない。私に出来ることは、ただ彼を見守り続けることだけ。 彼はひとしきり泣いたあと、「暗い話はやめにしよう」と私に明るく微笑んだ。 「そう言えば、お前の妹さん結婚したぞ」 「え!! へぇ~、あのお転婆娘がね~。もうそんな歳ですかぁ」 「安心しろ、相手はとびきりのイケメンだ」 「その情報、むしろ安心できなくなるんですけど~」 「ウエディング姿の妹さん、めちゃめちゃ美人でな。……お前が着たらあんな感じになるのかって思ったら、その場で泣いちまって。あの二人には悪いことをしたよ」
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