プロローグ

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(いつから好きだったんだっけ。よく覚えていない。でも物心着く前からずぅっと好きだったから、私の感覚では生まれた時からって言って過言じゃないと思う。それに、こっちに来る前は私の世界はほぼ兄さんで構成されていたし。兄さんと、大量の本と……) 「キョウ! 障壁を解いて」 「……! わかった!」  キョウは力を抜いて杖を下ろす。障壁は音もたてず消え去った。 (今日はやたらトリップするなあ)  深く被っていたとんがり帽を少し上げる。少し視野が明るくなった。  改獣はブルブルと頭と、臨戦の意志を表すように後ろ足の蹄を地に突きならした。  リュウに怯えた様子はなく、構えを取らないものの鋭く改獣を睨んでいた。  音が凪ぐ。  その瞬間を待っていたかのように突進する改獣。ここで始めてリュウが構えた。大股開きで身を屈み、柄を耳元に置く、刀身は地面と平行になるようにまっすぐに突き出す。  そんなことなどお構いなしに突進する改獣。  もはや刹那にも衝突する距離へと迫った。  瞬間。  ドッと地面を蹴り跳ぶように前に出るリュウ。改獣の腹部の下へと入ると、天を突くが如く刀身を突き刺した。  プラズマの弾ける音が幾重にも響く。  低く呻く獣。  焦げ付いた匂いがあたりに充満する。  しかしまだ生きている。 (兄さん……!)  祈るような気持ちで兄を見る。  目が合う。  笑っている。  刀を握る片手をするりとグリップエンドに据える。  しっかりと頭の重みを手のひらに感じると、力を抜けないように気を配りながらも、その形をなぞるように意識を集中させる。  改獣はまだ意識を保っている。  体をよじろうと右前後の足を折ろうとする。  が。      ブォオン。   炸裂音とも発砲音ともとれない、巨大な空気砲が放たれたような音が草原にこだまする。     ……ズドン。     リュウが体をくるりと翻すと改獣がその巨躯を地に臥す。腹に空いた風穴からは黒々とした血がドクドクと溢れ、辺りの草花を紅く染めた。    キョウが行った詠唱や、あるいはフレイの魔導書に描かれた魔法陣などの、術式にマナを込めるものを魔法と呼ばれるものではない。   《魔放》    ただ体内のマナを放出だけの稚拙な技術であることから、人々はそう揶揄する。
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