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本来、人が持てる魔力とは微々たるものである。というより、放出するだけではその潜在能力を活かすことができないのである。マナ濃度の高いエルスフィアの森に、一応は人間でも入れるのがその証拠である。
術式はその潜在能力を飛躍的に引き出し、奇跡を起こす。そのため同じ量のマナ使っての魔法と魔放の威力の差は甚だ歴然である。
だが、結果は。
魔放に押される形でリュウの腕から射出された刀は、騎士団が槍矢で攻撃しても仕留められず、そんなできごとなどなかったかのように猛襲してきた獣の腹部を破り離れた大地に突きささり、対するリュウは腕で汗を拭うしぐさを見せるもののいつもの涼しげな表情をしていた。
「さすが、おに――」
「ばか! ばか、ばか!」
キョウが褒めるよりも早くフレイが抱き着き押し倒す。
「なんで! あなたは! いつもそうやってこわいことばっかするんですか!」
「いたた」
「もっと! まわりのことを! かんがえてください!」
「いたたたた」
フレイは馬乗りのまま、今にも涙を零しそうな表情でぽかぽかとリュウの胸を叩く。その様は兄妹猫のケンカのように、あまりにも遊戯的であった。
ディは呟く。
「痛いのはこっちだよ」
「……人の心ニヤつきながら代弁しないでくれませんか?」
ムスッとするキョウの表情に思わずディの嗜虐スイッチが入る。
「加わらないの?」
「兄さんを信頼してないから怖がるんです。私は信じてましたから」
「じゃああのままでいいの?」
「……構いません」
「……うーん。そうだなあ」
ディは胸元をまさぐると、ゼロックを出す。
「リィン?」
「ちょっとこの子預かって」
「はい?」
「リュウ!」
「あとこれも」
「弓と、矢ですか?」
「じゃ、あー!」
「なっ!」
「とりゃあ」
ディはリュウの胸で伏すフレイの上からさらにのしかかった。二人は短い奇声を上げる。
(な、なななんてことを! お兄さんの上に私以外の女が二人も! しかもあの
桃色贅肉女なんかお兄さんの、うう、まさぐってるし! もおぉぉぅううう……兄さんも兄さんだ!さっきのやつみたいにバーーーンとふっ飛ばしてよ! 嫌ならさ! ……嫌じゃないの? もしかしてまんざらじゃないの?その状況!)
「リィン?」
キョウはゼロックのつぶらな瞳に映る自分を呆然と見つめる。
「いやん?」
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