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ディが猫なで声でリュウの腕に胸を押し付ける。豊満なそれは服越しにぐにゅっと形を変える。フレイはため息をつく程度だったがキョウの動揺は激しかった。口を金魚のようにパクパクさせながらひたすらディと兄の顔を交互に見る。兄は若干困った――というよりは参った――というような表情でもう片方の手で握る刀を鞘に戻した。
「むにゅー」
「……!」
加虐心に火がついたディはより一層胸を押し付ける。キョウはもう歪な曲線を描くそれに釘づけだ。
(そ、そんな脂肪の塊押し付けてなに関取かなにかなの? そんなのふつうの男は知らないけど兄さんには効かないからね。だ、だだだってそれ、所詮贅肉だもん。しかも服越し。それってもう実質柔らかい布だよ。枕だよ。だから……兄さんもこう、振り払おうよ! 腕陥没しちゃってるじゃん!……やっぱ必要なのか、胸! ぐぬ、ぐぬぬぬ)
「もういいでしょ……」
その様子を見かねたフレイが反対側からリュウを引っ張る。ディは「きゃっ」と短く甘い声を出しあっさりリュウを解放した。
ふふんと鼻を鳴らしながらディはフレイの背に回り、腕から体を彼女に預ける。
「ヤキモチ?」
「そ、そんなんじゃありません!」
「じゃあこっちかな」
「――ふゎ」
垂らした腕で胸元をまさぐる。フレイは思わず肩を震わす。
が、瞬時に耳をを屈め緩い拘束から抜け出すと、魔導書を開く。
「怒りますよ!」
「フフ、冗談よ」
眺めていたリュウが笑う。
「そんなに面白い?兄さん」
「……キョウは面白くない?」
キョウはちらりとリュウを見て、息を深く飲むと、
「面白いよ。兄さんが面白いならね」
片頬を膨らませた。
「あら?」
ディの胸元が小さくぽこっと突起する。突起は体を伝い上へ向かう。
「りうぅ!」
赤く丸っこいリスのような小動物が首元から顔を出した。
「どうしたのゼロック」
ゼロックは彼女の肩に乗ると、
「りゆ、りうぅ!」
汗を飛ばしながら何かを必死に訴えるゼロック。ディがつまんで手に乗せると、前方に尻尾をピンと伸ばした。
四人は一斉にその方を向く。気づけば眼前まで迫っていた森が、静かにそそり立っていた。
草原と森の間はまるで境界でもあるかのように思えた。周囲には若木すらないのに突然巨木が並ぶ。
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