ただそれだけのこと。

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「まず、ここは軍の本部だ。」 「軍ってなに?」 「軍とは、俺たちAIを戦闘機に乗せ隣国から国を守る組織のことだ。そしてその軍を制御しているのは、さっき君の世話係をするよう命令された司令官だ。もちろん司令官は人間だ。」 「なんでAIが戦闘機に乗るの?人間はだめなの?」 「だめというわけではない。別に人間が乗ってもいい。しかし彼らには命がある。戦闘機に乗るということは、いつ命をなくしてもおかしくないということだ。そして俺らには命はない。だから俺たちが乗った方が効率的なのさ。たとえ死んだとしても5万円もあれば俺たちは10体生産される。どこの国だって同じようなものさ。」 「でもあなたは生きてるじゃない。今こうして私と話をしている。」 「別にだからと言って生きているわけじゃないだろう。どちらにしても、俺たちに死という恐怖はない。ただひたすら敵国を抹殺するだけの機械だ。」 ツェアなら顔が奇妙に歪む。泣きそうでいて怒っているようなか顔だ。 「でも、でもそれはおかしいよ…。そもそもAIってなんなの…。」 「AI、つまり人工知能だ。人によって、人のように作られた機械ってとこだな。もっとも10年ぐらい前までは、今の俺みたいに喋れる奴なんていなかったみたいだけどな。ようは俺たちは機械なんだ。だから人間のような命はなく、死への恐怖もなく、ただひたすらに命令をこなすだけだ。」 ツェアはなにを思ったのか、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめて、小刻みに震えている。寒いのだろうか。 「でも…。でも!」 ツェアが立ち上がり叫ぶ。しかし俺の目を見た途端口を開いたまま固まり、大きな黒い瞳から涙がこぼれ落ちた。 泣く…人間の感情が体現されるもの。主に痛み、悲しみからくる。 「どうしたツェア。痛いのか?悲しいのか?」 ツェアは答えない。ゆっくりと大粒の涙を流し続けている。 「ツェア?」 「痛いし悲しい。あなたは生きているじゃない。なんでそんな…。」 ツェアの言いたいことはよくわからない。だが泣いているときは一度寝るとスッキリすると聞いたことがある。 「ツェア。今日はもう寝よう。」 部屋を見渡すとベッドが二つ置かれてある。 荷物の山から部屋着を出し、ツェアの手を引っ張ってベッドへ向かう。 「さあツェア。明日、俺は休みだ。明日こそは君のことを聞かせてくれ。でないと世話もなにもできない。」 そう言って制服を脱ぎ部屋着に着替える。
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