第三章 出会い

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第三章 出会い

「そう、大阪でメイクの勉強をしていたの。」 と彼女、大山君枝さんは言った。 「そうなんです。 学校でいろんな事をさせてもらったんですけど、 モデルさんだけや無くて 沢山の人に、メイクの楽しさを知って欲しくて。」 応えながらキョウコはため息をつく。 そう思ったものの現実は厳しく、 一次面接で断られすぎて、気力がわかない。 生まれてこの方 ずっと自分の思い通りにやれて来たのに、 初めての拒絶が、こんなにキツいとは思わなかった。 たかが就職活動、 人格を否定された訳でもないのに。 そう思いながら、キョウコは辺りを見回した。 2、3人座れば一杯の カウンター席に大きな鏡がある。 これに何人の女性が映し出されたのだろう。 見るからに歴史の深そうな店だった。 「ここ、いつからやってはるんですか?」 「そうねえ。」 君枝さんは遠くを見た。 「夫と結婚した時は、お姑さんがやってたの。 私が継いでからは40年くらいかしらね。」 その旦那様とは 15年位前に死別しているらしい。 一人息子は家族があり、孫は二人。 「元気なうちは仕事をしたいの。人生長いから。」 今は、一人身の自由を謳歌しているようだった。 何となくキョウコも “こんな感じで年を重ねたい” と思えるような軽やかさがある。 キョウコは君枝さんが羨ましかった。 御年80歳、まだまだ元気そうだ。 「素晴らしいです。」 と彼女が言った途端、一人の年配の女性が入ってきた。
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