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僕の恩返し
もう十五年ほど前のこと。
その日は雨が降っていて、土砂降りで、寒くて寒くて僕は震えていた。汚れたゴミ捨て場の傍らで、段ボールに押し込められた兄弟たちと一緒に。
目も明かない兄弟が動かなくなっていくのが恐ろしくて、必死に何度も、声をあげた。僕たちが此処にいることに気づいてほしく、助けてほしくて。
「……大丈夫だ」
傘をさして足早に歩いていた男性は、僕たちの声を聞きとめると足を止めた。段ボールの蓋を開けて、僕たちにその手を差し伸べた。
弱り切った僕たちを、彼は女性と一緒に必死に看病してくれた。冷えた体を温めて、ご飯をくれて、病院ではちょっと痛い注射を打たれた。
中には助からず、死んでしまった兄弟もいたけれど。二人のお陰で僕たちは元気になって、彼らが探してくれた新しい家族のところにそれぞれ引き取られ、とても幸せな日々を過ごすことが出来た。
「にゃからこれは、僕からにょ恩返し。僕たちを助けてくれたあにゃたたちにょ為なら、これくらいどうってことにゃいにゃあ」
十五年経って、僕は優しい家族の下でさよならの時を迎えようとしていた。
でもそんな時に、僕たちを助けてくれたあなたたちのことを知って、それなら残り僅かな灯を、あなた達の為に使おうと思ったんだ。
家族には、ちゃんとさよならを済ませた。きっと伝わってる筈さ。十五年の間に子どもだって出来た、僕がいなくなった後は子どもたちが家族を守ってくれる。
「……喜んでくれたかにゃ?」
初めて僕を抱き上げてくれた、優しい人たち。その二人の手が僕を抱き上げて、ぎゅっと、抱き締めた。
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