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「おばあちゃん、こんにちは!」
「こんにちは。みぃちゃんに会いに来てくれたの?」
「うん!」
庭を囲むブロック塀の穴から、少女が顔を覗かせる。元気で明るい大きな声、デッキに降りた佳代子が「いらっしゃい」と少女を招き入れた。
お邪魔します、と元気に礼をして庭へと駆け込んできたのは、最近になって隣の空き家へ越してきた一家の子どもだ。俺たちが佳代子のところに来てから、ちょうど一ヵ月が経った頃だった。
「みぃちゃーん、んー! 可愛い!」
「ふふっ、ありがとうね。よかったわね、みいちゃん。可愛いって」
「みゃあ」
デッキに腰かけた佳代子と少女の間で、小さな手に撫でられる子猫が喉を鳴らす。
引っ越しの挨拶で訪れた際に子猫の存在に気づいてからというもの、少女は学校が終わり帰宅すると、程なくして隣家である佳代子の元を訪れるようになった。佳代子に、というよりはその目的の九割九分が子猫であるのは、御覧の通り。
少女の一家は四人家族。共働きの両親に、小学二年生というこの少女、それからもう一人。
「おばあちゃん、こんにちは。すみません、澪は来てますか?」
「こんにちは、美紀ちゃん。澪ちゃんなら此処にいるわ」
「お姉ちゃん、遅いよー」
少女と同じようにして、ブロック塀の穴から顔を覗かせた少女。中学一年生の美紀は澪の姉で、同じく学校が終わる頃合いになると、高確率で子猫と遊んでいる澪を引き取りにやって来る。
どうやら澪は此処で過ごして他の家族、もっぱら美紀の帰りを待っているつもりのようだが、こうも頻繁に入り浸って迷惑ではないのかというのが美紀の懸念らしい。デッキから出した足をプラプラ、呆れたと言わんばかりの口振りの澪を迎えに庭へとやって来た彼女は、隣で微笑む佳代子に眉尻を下げて謝った。
「すみません、おばあちゃん。澪がお邪魔しちゃって」
「いいえ、いいのよ。澪ちゃんが来てくれると私も楽しいの……それに、みぃちゃんも、澪ちゃんのこと好きみたいだもの」
「……ありがとうございます」
ほっと、歓迎的な佳代子の言葉に、美紀が頬を緩ませる。
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