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彼女は昔から、彼女の言う通り不器用で、要領も悪くて。だけど真面目で一生懸命に、自分に出来ることを頑張ろうとしていた。
不器用故に、体よく雑用を押し付けられることも多く、しかし真面目だからそれすら熟そうとして、要領が悪いのもあってそれすら中々片付かず。
傍から見ているとあまりにももどかしくて、見ていられずに何度も手を貸した。あれこれと口出しする俺を鬱陶しがっても良かった筈なのに、佳代子はいつも、ありがとうと微笑んだ。
夫との想い出の家を離れることも出来ない、不器用で優しい寂しがり屋。そんな彼女を残して逝くのは心残りで、なのにそんなことも満足に伝えられなかった、言葉も態度も足りない馬鹿な俺。
「ずっと、見ていてくれたのね。それでやっぱり、見てられなかったのね」
佳代子は困ったように、だけどとても嬉しそうに笑う。
笑わなくなった彼女が悲しくて、そうしてしまったのが俺だというのがショックだった。俺のことを引きずる彼女に、また微笑んで、寂しい思いをせずに過ごしてほしかった。
「にゃ」
子猫がいて、隣人の家族は穏やかな佳代子と同じで優しく、和やかで。一人で過ごす彼女の心を温める、陽だまりのような存在が出来た。
俺に出来ることなんて殆どないけれど、それでも、何かが出来て、彼女の心を慰められたなら。また微笑んだ顔を向けてくれる佳代子に、あと出来ることはきっと、一つだけ。
「冷たい体……今度は私も、一緒に連れていってくださいね」
頬を寄せた佳代子に、俺はパタリと尻尾を鳴らす。
最期を看取ってくれた彼女の、その最期を看取ること。もう寂しい思いはさせたりしない、俺は小さく鳴いた。
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