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菜草の携帯電話に着信の音が静かに鳴った。女子中学生には珍しい黒電話の音である。聞き慣れた光希は「天音ちゃんかな?」と言いながら机の上に置いてあった菜草の携帯を取り、持ち主に手渡した。
「ありがと、おお、ホント助け舟だ!」
「人を災害扱いするのはやめましょうね、菜草ちゃん」
「へへへ」と笑顔で光希の苦言を躱すのであった。
「もしもーし、お疲れ様、天音ちゃん。もう帰れるのかな?」
『あー、ごめん。剣道部の先輩に呼び出しされちゃって、光希の家に合流は出来ないんだ。直接お店に行くことにするよ』
「えー、そうなんだ。呼び出しって“いつも”の?」
『う、うん。ゴメンね。少し食べながら待っててよ』
「そっか、仕方ないね。先に行ってるね」
“いつも”の呼び出しがあった。光希にもそう伝えた。「そうなんだ」と、良い表情をしない。西条天音は二年生ながらエリアでも最高峰の腕を持ったいわゆるスーパー中学生。その素質にはいくつもの角が立つ。しかし、それだけではない理由は菜草、天音、光希は知っている。
「大丈夫だよ、菜草ちゃん。天音ちゃんなら大丈夫だから」
身体を引き抱き寄せてくれる光希の香りはやはり甘い。
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