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朝の九時からスタートしたワイドショーでは、東京都世田谷区の『豪徳寺』という寺でおきた、猟奇的な事件の特集をしていた。
番組内で、大げさな身振りで男のアナウンサーが、事件の発端を説明している。
前日の八月八日、豪徳寺の住職が、開門時間である朝六時の三十分まえぐらいに、境内を散歩していた。本堂をでて仏殿を通り、井伊直弼墓所に手を合わせる。そして、三重塔という、三つの屋根が等間隔に配置された建物が、いつも通り神々しく鎮座しているのを確認しながら本堂に帰ったという。
夏の早朝という、非常に過ごしやすい時間を満喫した住職だったが、事件はほどなくして発覚した。本堂のすぐ横にある、来客用受付のわき道には、『招き猫』という、豪徳寺を象徴する猫の置物が多数陳列されている。この寺の訪問客のほとんどは、招き猫を見物するためにここへきているといっても過言ではない。住職は本堂に入る前、いつもの散歩コースをはずれて、招き猫が立ち並ぶ細道にも足を運んだ。右手をあげ、黒々した目を前方にむける大小さまざまな猫たち。そのとき、住職は異変に気づいた。同時に、ひどく驚愕したという。
無機質なプラスチックで構成された招き猫にまぎれて、毛に覆われた明らかに作りものではない、猫の生首が四つ、添えられていた。
マイクをむけられた住職は、悲痛の表情で当時の状況のインタビューをうけている。それが終わると、番組は再びスタジオを映した。アナウンサーは、事件の情報を補足する。
発見された四つの首は保存状態がよかったらしく、夏場にも関わらず腐敗はほとんどしていなかった。猫の種類は黒猫、白猫、三毛猫、茶トラであったという。それぞれ、目尻を下げている顔、大口をあけて威嚇している顔、無表情な顔、ウィンクしている顔、様々であった。その情報を聞いて、精神科医兼タレントを肩書きにしている若い男が、意気揚々と話し始めた。
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