祭の欠片『暦』

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屋台をたたみ終えた香具師達は、あちこちで「またなあ」とか「どっかでなあ」とか短い別れの言葉を投げ合っている。 酉の市の終わりを待ち構えていた清掃局下請けのゴミ収集車が動き出した。指定されたゴミ置き場や、道路に散乱した食べ残しの容器や空缶空瓶を、収集車のすぐ後ろについて歩く作業員が拾い、かき集め、ゆっくりと進む収集車のバケットに投げ込んでいく。 年輩の作業員が哲の屋台を覗き込み,舌を鳴らして撤退を促した。 「おじさんわりいなあ、馴染みにあったもんだから片付け遅れちゃった。もうぼちぼち終いにするから勘弁してくれや」 清掃作業員が片手をあげた。 「さあ、これを三等分注いで終いだ」 徳が大きさの違う容器に、均等にヘネシーを注いだ。 「高橋、これおまえにやるよ、なあに今年は帰ろうと思って買った新幹線のチケットだ。こんなもんだなあ、帰ろうと思った矢先におふくろが死んじまった。おふくろがいなけりゃあこれは俺には用無しだ、十二月の十日、午後の新幹線だ。三の酉の日だ、まだ二十四日もあるからそれまでなんとか食い繋いでくれよ、残念ながら俺におめえの食い扶持出すだけの余裕はねえ。なっ高橋、悪いことは言わねえ、一度帰って、おふくろや家族友達に会って、よく考えてから人生決めても遅くはねえ、おやじの漁を手伝ってもいい、他に仕事があったらそれでもいい、地元に暫くは密着して暮らしてみちゃあどうだ、俺はおまえにはその方がいいような気がするがなあ。それで、もし上手くいかねえで、仕方なしに東京暮らしに戻らなきゃならなくなったら、そんときゃあ覚悟決めて出てくりゃあいいじゃねえか」 「・・・・す」
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