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さてと、くだらない思い出に耽ってないで、そろそろ帰らないとな。そう思って足を早めようとした時、目の前に、すっと一陣の風が吹いた。
あれ?何だか妙な感覚に襲われた。たった今、母親が自分の脇をするりと通り抜けて行った気がしたのだ。確かめようと振り向いて、大きく目を見開いた。莫迦な、そんなこと有り得ない。
玖晶の数歩先を母が歩いていた。自分は酔っているのだろうか?
玖晶は一旦目を閉じ、一息おいてから目を開いた。もう一度しっかりと相手を見る。目に映ったのは別人だった。背格好からすると男だ。何で間違えたんだろう。
しばらく見入って、ああそうか、と、玖晶は納得した。少しばかり雰囲気が似ていたんだ。背筋をしゃんと伸ばしてしっかり前を向いて歩く姿を、母と重ねたのだ。
先方がちらりとこちらを向いた。遠目に見ても、端正な顔立ちをしているのがわかる。背格好から、さっきは男だと踏んだが、背の高い男装した女のようにも見える。一体どちらだろう。
気になって目を離せずにいたら、二人の男が足早に、その人物の方に近づいて行くのが目に入った。
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