逢魔《おうま》

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 二人の様子はどうも、普通ではなかった。彼らの手に握られていたのは、短刀だった。玖晶が胸騒ぎを感じた途端、男たちは、同時に彼に斬りつけた。  危ない、刺される、と叫びそうになった瞬間、玖晶は思いがけない光景を見た。  標的となった人物は、ふわりと揺れるように、相手の攻撃を()けると、二人の手から素早く短刀を奪い取った。そして、顔色一つ変えずに、双方に突き立てて、何事もなかったように、すたすたと歩き始めた。二人の男は、ばたりと音を立てて地面に倒れた。  やがて、倒れた男たちの周りに人垣ができて、ざわざわと騒ぎ出した。喧嘩だ、殺し合いだ、誰か呼べだの、と喚く声が耳に入った。  玖晶は凍りついたようにその場を動けなかった。違う、誰も見ていなかったのか。喧嘩でも、殺し合いでもない、これは……  ふと、我に返ると、人だかりから離れた所で、誰かが自分のことを眺めているのに気づいた。先程、目の前であの二人を倒した人物だった。彼は興味深げに、こちらの様子を見ていた。  まずい、玖晶は蒼くなった。慌てて顔を()らせようとして、むしろ、反対にしっかり目が合ってしまった。相手はにっこりと笑った。
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