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どうにも腑に落ちないのだ、と女主人は言った。
「あれほど、自分で直に渡すんだって言ってた人が、届けてくれなんて一体どうしたんだろう。」
「おおかた別れたんじゃないですか?」
「だったら、何か言いに来るなり、二度と来ないかのどちらかじゃないかしら。それが届けてくれだなんて、何か引っかかるんだよね亅
それとなく様子を見て来い、ということらしい。
「届けるだけならしますけどね。この間みたいなことは御免です。」
玖晶は半月ほど前の出来事を思い出した。あの時は何処ぞの奥方が内緒で買った品を届けに行き、言いつけ通り裏の門口で出て来るのを待っていたら、間男に間違えられて、すんでのところで家の主に殺されそうになったのだ。厄介ごとなら、御免被りたい。
「あれは、たまたま巡り合わせが悪かっただけよ。そうだ、帰って来たら、何か好きなもの奢ってあげるから。」
うん、それは悪くないかも知れない。食べるなら羊串がいいな。
「わかりました。」
玖晶は釵の入った箱を受け取ると店を出た。
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