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嘉寶來の女主人から渡された紙には道順がこと細かく書いてあった。届け先は、店のある街の中心からやや離れた所だったが、今から出かければ夕方前には戻れるだろう。
幸い、途中まで同じ方向に行く荷車があったので、頼み込んで乗せて貰った。これで全部は歩かなくて済む。
玖晶は道の分かれ目で、礼を言って荷車から降りた。表の通りから中に一本入ると周囲の雰囲気は大分変わった。人通りも少なくなった。
この一角は、昔は瓦子(繁華街)であったものか、酒肆や妓楼だったらしい建物をちらほらと見かけた。今は殆どが表の戸を閉ざして、店を畳んでしまっている様子だった。たまに開いている店があっても閑古鳥が鳴いて、店の者は暇を持て余していた。
時折、寄って行かないか、と声をかけられたが玖晶は無視した。なるほど、こんな所に大事な店の者は寄越したくないと言う訳か。道を進むと辺りはどんどん寂しくなって行った。
空き家ばかりが目立つようになった先に、その家はあった。
どうやら、元は妓楼か何かだったものを手直しして住まいとして使っているようだ。周辺の建物が所々、古くなって崩れかけているのに対し、そこだけ綺麗にきちんと手入れが行き届いているさまには、どうも奇妙な感じを覚えた。
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