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「あら、召し上がりませんの?」
女は怪訝な表情で玖晶を見た。
「すみません、こちらを先にお渡しすべきでした。」
お届け物です、そう言って、釵の入っている箱を差し出した。女は箱を開けて中を見ると、目を輝かせた。
「そう、これが欲しかったの 。届けていただいて感謝しますわ。前に見かけた時に、この牡丹の細工がとても気に入ったの。」
牡丹じゃなくて芍薬です、とはあえて訂正しなかった。
「良かった。それを聞いたら贈り主の張様も喜ばれるでしょう。」
「あの人が?」
女はけらけらと笑い出した。
「あの人がねぇ、さあて、今頃どこでどうしているのやら。実はあの人とはもう終わってしまったの。」
「ここのところ訪ねて来ないと思っていたら、ある日門に文が差してあったの。他に好きな女ができたから別れてくれって。その代わり、前から欲しがってたこの釵をやるから、ですって。酷い男ね。」
同意を求めるような視線をこちらに向けたが、玖晶は答えなかった。
「ところで、ねえあなた」
不意に女の口調が変わった。
「だから、私、暇で暇でしょうがないの。お時間があるなら、少し話し相手になってくださらない?」
そう言って、さり気なく手を伸ばしてきた。
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