釵《かんざし》

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 彼女の手が触れる寸前に、玖晶は自分の手を引いた。 「あらあら。」 「すみません。こういうこと慣れていないもので。亅  玖晶が言うと、女は楽しそうに笑った。 「ずいぶんと可愛いこと言うのね。」  ここら辺りが潮時だ。これ以上、長居はしたくない。 「失礼します。」  玖晶は、椅子から立ち上がった。残念ね、と女は言った。 「あなた、お茶に口をつけなかったわね。」  細められた女の眼が鋭く光ったように見えた。 「どうしてなの?」 「そうでしたっけ?それはどうもすみませんでした。」  玖晶は気が付かなかったという体で首を傾げた。 「まあいいわ。気が向いたらまたいらっしゃいね。お待ちしてますわ。」  冗談じゃない。誰が二度と来るものか。
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