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こうして、十年越しのかつての約束は、果たされる事となった。
嬉しかった。
十年の月日をかけて降り積もった恋心が、浩之の妻になれる事に喜んでいた。
たとえこれが友情婚と呼ばれるものであっても、毎日の様に結婚を急かされる事への回避法であっても、彼と一緒にいられるのならそれでもいいと思えるほど想いは強くなっていたから。
突然決まった私達の結婚に、周囲は驚きつつも納得の声を上げ、祝福の言葉をくれた。
それからの浩之は、私が驚くほど手際が良かった。
式の準備も進んで行ってくれ、招待客のリストや手配など、互いに仕事をしながらだというのに、面倒なところは全て浩之がやってくれた。
あれよあれよと準備が進み、そして―――私達は今日、夫婦になった。
「一目惚れだったんだよ。綾乃」
そう言って私に口付けた浩之の唇の熱と、重なり合った身体から伝わる体温に、私は驚きと羞恥で一杯になっていた。
口内に入り込んだ熱の塊が私の唇の裏をなぞり、やがて啄ばむような優しいものに変わっていく。
「友人の紹介で、綾乃と知り合う前から俺は綾乃の事を知っていた。綾乃に近付きたくて、話したくて、頼み込んで紹介してもらったんだ」
息継ぎをするのと同時に聞かされた過去の真実に、私は目を見開き彼の顔を見つめた。
照れ笑いみたいにはにかんだ顔が、再び下りてきて私の額に軽い口付けを落とす。
「ずっと好きだと告げたかった。なのに失うのが恐くて出来なかった。自分でも情けない男だと思うよ。だけど十年綾乃に焦がれて……やっと今日、手に入れることが出来た。綾乃が嫌でないのなら、このまま本当に、本当の意味で俺の妻に……なってほしい」
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