イレギュラー・レーズン・イン・ハート

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 ひ、と喉の奥が鳴った。スマートフォンを取り出して天気情報を呼び出せば、出勤時に確認したそれとは様変わりしている。  今朝方、自分が立てた計画とはまったく違う一日になってしまった。今日は定時で帰って、傷む一歩手前のニラでニラ玉丼を作ろうと思っていたのに。  もう、帰ってしまおうか。デスクの上に広げられた書類とモニターに映し出されたエクセルの表を恨めしく見やる。  週の初め、月曜日。営業事務の自分にはイレギュラーな案件が少なくない。明日アポがとれたといえば急遽プレゼン資料を完成させなくてはならず、出張が入れば期日前に見積もりを打ち出して印をもらわねばならない。  今、作成しているのは課長が明後日に有給を取るため、その前日――つまり明日までに必要となった資料だった。  不意の来客、クレーム電話、後輩の体調不良と、今日はイレギュラーが多過ぎた。もちろん、ある程度は予見できたはずだし、問題解決能力に欠けているきらいがあるとは自覚しているけれど。  きゅう、と腹の音が鳴る。中途半端に食べたので、空腹が刺激されたのだ。デスクに放置された一口齧られただけのケーキを見やる。  昼休みにもらった手作りチーズケーキ。チーズケーキは嫌いじゃない。むしろ好物だ。 「あれ、佐々木さん」     
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