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止める間もなしに、あんぐりと開いた口の中にレーズンが吸い込まれるのを呆れ混じりに見送りつつ、訊く。
「いや、最近野菜不足だから」
「いえ、野菜じゃないですよ」
「レーズンって栄養価高いでしょ。で、植物だったら野菜でしょ」
きゅうりの立場は? ギネスブックに載るほどの栄養が少ないとされる野菜を思い浮かべるが、黙っていた。これぜったい、ああいえばこういうになるやつだ。
矢中はレーズンを口に投げ入れながら、
「レーズンって乳首っぽいよね。いや、乳首がレーズンっぽいのかな。でもレーズンがある前から乳首はあったわけだから、やっぱりレーズンが乳首っぽいんだよね」
「最悪です」
「え、佐々木さん乳首レーズンっぽかった? ごめん、デリカシー無かったね」
そこじゃないし。ムキになって否定すれば、いいからいいから、重要なのは感度だから、とかなんとか返されてしまうやつだ。
どうすれば良いの。今日一番のイレギュラーに、早季子は途方に暮れた。元来、矢中が苦手だ。不意に現れ、冗談とも本気ともつかない言葉で掻き乱す。
「その資料、飯島課長の案件でしょ。プレゼン来週になったらしいよ。うちの課長と話してた」
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