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「……ありがとうございます、飯島課長」
けれど、二個目以降は純粋な好意によるものも混じっているから厄介だった。一つ供えられたら、早季子がレーズン好きだと勘違いした人が外出のついでにと買ってきてくれる。二つ三つと増えれば、誘い水となるのか、次々増える。先日、勘違いとはいえ小田原のレーズンチーズケーキを受け取った手前、今更嫌いとは言えなかった。
「資料、南区も揃えておいてくれ。来週午後イチ持ってくからな」
……今更。早季子は色々な意味で引きつった笑顔で、直属上司が差し出した東ハト『オールレーズン』を受け取った。
「なんでわざわざこんなこと」
「佐々木さんは夜食食べれる、おれは野菜食べれる。ウィンウィンでしょ」
――野菜を買えば良いだけじゃ。
喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。
金曜日の二十一時、早季子は飯島課長の資料を仕上げるために残業していた。月曜日以降、今週は連日残業をしている。課長が日に日に用意しなくてはならない資料の上乗せをするから。
そして今週は矢中もしばしば残っており、今はデスクに向かっていた。仕事は手早く、営業先から直帰することが多いのに珍しい。
「レーズンほじるの、結構な手間なんですけど」
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