イレギュラー・レーズン・イン・ハート

7/12
前へ
/12ページ
次へ
「食べるのに手間を惜しんじゃいけない」 「いえ、レーズン食べないし」 「次、オールレーズン開けてよ」 「聞いてないですね、人の話。オールレーズンは生地に練り込んであるので物理的に不可能です」 「なんでレーズン嫌いなの」  キャスター付きの椅子に座ったまま、矢中が移動してくる。改めて訊かれて、早季子はしばし考えた。 「……一番嫌なのは食感ですね。レーズンが入っていると知らずに食べた時のイレギュラー感というか、異物感っぽいのが」 「味は嫌いじゃない?」 「そうですね。ラムレーズン味とか別に嫌いでは」 「乳首の形してないもんね」  そういう意味じゃない、と言おうとして口を噤んだ。  思いの外、距離が近かったから。ぎりぎりスカートに覆われた膝と、スーツの布地が擦れ合う。 「イレギュラーが嫌なわけ?」 「……厳密に言葉の用法として合ってるかわかりませんけど。そうですね、不意打ちに弱いです」 「じゃあ、イレギュラーがあることが、レギュラーな場合は?」 「は?」 「オールレーズンは全部(オール)レーズンで、レーズンなのが当然でしょ。これはイレギュラー、レギュラー、どっち?」  混乱した。オールレーズンはオールレーズンだ。イレギュラーかレギュラーかなんて考えたことない。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加