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「変ですよ」
「うん」
矢中は後ろ向きに座って、背もたれを抱く姿勢になっている。椅子の背に顎を乗せて話題を変えてきた。
「ササキサキコって、カタカナにすると冗談みたいな名前だよね」
「やめてください。全国のササキサキコさんに失礼です。小学校の頃も言われてすごく嫌でした」
「嫌いな人に言われたからむかついただけでしょ。好きな人なら嬉しいもんだよ」
極論だと思った。面倒臭くてもこれは否定しなくてはならない。全国のササキサキコのためにも。だが。
「飯島課長にササキサキコササコサキコサキコサキコ呼ばれても嫌な気しないでしょ」
ムシロウレシイでしょ、という彼にすぐに反応できなかった。矢中はいつも通りの無表情。にやつきもからかう調子もない。
「佐々木さんの初恋の相手、当ててみせようか」
「……はい?」
「小学校の先生。次が部活かサークルの先輩。直近でバイト先の店長」
「…………」
「で、現在進行形で職場の上司なんて、あんまりにもレールに敷かれた人生で次の駅名までわかっちゃうよ」
「…………なんですか」
「不倫で退職。で、結婚適齢期逃して終着駅は老人独居」
ぽとり、と。レーズンスコーンからほじくり出したレーズンがフロアに落ちた。
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