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廊下の窓際にある鉄製のフックに羽織っていたコートを掛け、マフラーを外しながら教室に入る。 暖房が効いておらず、くしゃみが出た。
私の席は後ろなので後扉から入り、誰とも顔を合わせないまま足早に席へ向かう。
そうすると必然的に誰からも挨拶はされないが、私からすればそれで良かった。
むしろ、挨拶をされたくないと思っているぐらいだから。
机に鞄を置き、はあっと息を吐く。
視線を上げられないまま、だけどこのままではいけないという自覚はある。
いつまでも縛られていては、私は成長できない。 これから先、必ず誰しもが直面することなのだから。
……いや、彼女の死に方を鑑みれば、誰しもが直面する出来事だとしても受け入れるのは容易でない。
「──ね、アカリはどう思う?」
背後から呼ばれた名前に顔を向けると、水泳部のリコちゃんが複雑な表情で前方を指差していた。
脈絡なくどう思うと訊かれても、私は意味を掴み取ることができずに訊き返した。
「ど、どう思うって……?」
「だから、あの紙のことじゃん」
「紙?」
リコちゃんが顎をしゃくった先、綺麗に掃除された黒板に紙が貼られているのに気が付く。
「予定変更を報せる紙じゃないの」
時折、急な予定変更が行われるときは決まって紙に書かれて掲示されるのだ。
ただそうであるなら、今回のはやけに小さいような気がする。 もう少し大きく印刷してくれれば、見やすいのに。
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