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自殺だと思っていたイチルが 誰かに殺されたという告発状を、もちろん全員が鵜呑みにはしていなかった。 「死に便乗した悪い冗談」と解釈する人がほとんどで、告発状通りに「イチルは殺された」と断言する人は現れない。 イチルは自殺したのか殺されたのか、私がどちらの線が濃厚であってほしいかを願うならば後者だ。 彼女が誰かに恨まれるような節は無いが、やはりイチルが自殺したとは考えたくない自分がいるのだ。 教室内に一つの疑心が芽生えたことで、その日はいつにも増してクラスメイトは静かだった。 担任も、各教科の先生も、普段とは違う雰囲気に動揺しているらしかった。 だけど誰一人として告発状の内容を口にする人はおらず、私たちだけの秘密にされていた。 ──秘密。 たしか、イチルと私の間にも秘密にしていることはあった。 だが内容に関しては、今回の告発状には全く関係していない。 本当に些細なことで、だけどイチルは必死に秘密にしようとしていた。 秘密にする約束をしたのは、二ヶ月前の十月だったと思う。 思えばあの日から、まるで最初からイチルの死を知っていたかのような冷たさが、私たちの街には吹き込んでいたのだ。
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