とける、とける。

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 ぐにゃぐにゃの階段を登りながら、そんな俺を捕まえようと誰かが手を伸ばしてきた。踊場で待ち伏せしていたらしい。だから触るなと言っているのに。消えろ、と手を振り払うと同時に、その男子生徒の頭がどろんと半分溶けた。残った顔は、どこかで見たことのあるものであった気がするが――深く考えるのはよそう。頭が痛くて堪らないのである。  力が、コントロールできない。デロデロのバターみたいになっている踊場を何度と転びそうになりながら通過し、屋上のドアにすがり付いた。甘い――甘い臭いがする。溶けたやつらはみんな飴になってしまったのだとわかる。最近は気に入らない奴を誰でも彼でも溶かしてしまっていたから、学校中が甘い臭いでいっぱいになってしまっていた。お菓子は好きだが、これはちょっと行きすぎである。 ――くそっ……くそくそくそ!イライラする……何でこんなに気持ち悪ぃんだ!  屋上のドアを開けた。そこは、ピンクの空が広がる飴細工の世界である。毒々しいほど赤かったり緑だったりするキャンディーで出来た床が広がり、溶けかけた青いフェンスがぶらぶらと揺れていた。――あれが、一番美味しそうだ。ぶらぶらしているのは危ないし、食べてしまった方がいいだろうか。  飴の床で足を滑らせ、マシュマロのクッションに躓きながらもフェンスに縋る。べろり、と飴細工の網を舐め上げた。思ったほどの、甘さじゃない。これなら食べられるかもしれない。ちょっと固いから、これもまた溶かしてしまえばいいだろうか。 ――なんかもう、考えるのもめんどくせぇ。全部全部、溶けろよ。ぜーんぶ。  瞬間。  どろり、と――フェンスを掴んだ俺の手が溶けて、どろどろの肉に変わっていった。
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