第一章

10/18
前へ
/568ページ
次へ
   そっと、ぼろぼろの扉に触れる。ひんやりとした金属の、その無機質な感触が、指先から脳髄へと伝わる。  はぁ、と溜め息を一つ吐き出して、アイリスは扉に触れたその手に力を込めた。  ギギギ、という不快な音を立てながら、扉がゆっくりと開いていく。  本来は外側に開く仕様なのだろう。しかし、手入れもされずに長く放置されていたらしいその扉は、最早開く方向を選ばなかった。  鎧を纏った自分の体が、辛うじて通る程度に扉を開いたアイリスは、冷たい扉にぴたりと背中を密着させると、ゆっくりと横向きに歩いて城内へ侵入する。  城郭の内部は、魔王の住まう城とは思えぬ程、とても温かかった。  灯りも無く、外よりも暗いのに、何故こんなにも温かいのか。腰に差した剣に手を掛けて周囲を警戒しながらも、アイリスはそんな疑問を抱く。  
/568ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加