第一章

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  「このような辺境の城へ、ようこそいらっしゃいました」 「……ッ!?」  突如として背後より聴こえたその声に、アイリスは体ごと驚く。この状況で悲鳴を上げなかっただけでも、彼女は勇者と称されるだけのことはあると言えるだろう。  直後に前方へと跳躍し、振り返り様に剣を抜いた彼女の目に飛び込んできたものは、使用人のような黒色のロングドレスを身に纏った若い女の姿だった。 「だ、誰なの貴女……」 「驚かせてしまい、申し訳ありません、御客様」  深々とお辞儀をして、彼女は続ける。 「私(ワタクシ)はこの城の主の世話をさせて頂いている者で御座います」 「『この城の主』……、まさか、魔王のこと?」  アイリスの言葉に、使用人らしき女はその首を僅かに傾けた後、更に言葉を紡ぎ出す。 「御用件を御伺いしてもよろしいでしょうか」 「…………」  無言のままに、アイリスは思案を巡らせる。もし彼女の言う城の主が、本当に魔王だったとすれば、『魔王を倒しに来た』などと馬鹿正直に伝えるのは得策とは言えないだろう。  
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