36人が本棚に入れています
本棚に追加
「アイリス様、と、御呼びしても宜しいでしょうか」
「え、ええ。それは勿論……」
唐突の申し出に驚きながら、アイリスはその顔を何度も頷かせる。
「では、アイリス様。恐らくアイリス様は、此処より遥か遠い異国の地で生まれ育ったとお見受けしますが、如何で御座いましょう」
「ええ、その通りよ。私はエリュシオン帝国で暮らしていたわ。生まれや育ちは違うけれどね」
「私はその地を存じておりませんが、そこには多くの方々が存在しているのでしょう。そして、貴女もそんな方々と関わりながら暮らしておられた」
「ええ、まあ、そうね」
彼女の言わんとしていることが理解出来ず、アイリスは心中で首を傾げる。
「貴女にとって、いえ、貴女方にとって、関わりの深い周囲の方々を認識するためには、やはり御名前が必要なのでしょう。しかし、他と関わることを必要としない我々にとっては、自己を自己と認められればそれで善いので御座います。私にとっては、我が主と、我が主に仕える私、その二者を認識出来れば、それで十分なので御座います」
最初のコメントを投稿しよう!