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表情無き使用人の、僅かに熱の籠ったその言葉に、アイリスは感嘆の息を吐く。
察するに、この城には城主たる者と彼女の二人しか存在してはいないのだろう。加えて当然の如く、強大なる魔物達の跋扈するこの地域では、現状のアイリスのようにこの城郭を訪れる者すらも居ない。
だからこそ、その二者が互いを認識出来ればそれでよい。つまりはそういうことなのだろう。
「『他と関わることを必要としない』、か……。強いのね、貴女は……」
呟くようにそう告げて、徐に視線を落とすアイリス。その脳裏に、過去の記憶が僅かに甦る。
しかし、直後に彼女ははっと我に返り、作ったような笑みを眼前の女性へと向けた。
この女性は、相手の心の内を読み取る。彼女の前で記憶を想起することは、彼女に自らの情報を開示するようなものだ。
この城の主が敵か味方かも解っていない今の状況で、それは愚かな行為と言えるだろう。
彼女の思考を読み取ったのか、それとも単に主のことを案じているのか、使用人の女は一度だけ深々とお辞儀をすると、再び城の奥へと向かって歩き始めた。
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