第一章

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  「此方です」  使用人の女性がそう告げるよりも前に、アイリスにははっきりと解った。  この部屋には、何かが居る、と……。  闇に包まれているはずの城内で、太陽の下にでも居るかのような、心地好い温もりを感じていたアイリスだったが、この階層に足を踏み入れた瞬間、その心地好さは嘘のように消え去った。  まるで水の底に沈められたかのような、冷たく、息苦しい感覚。一歩、一歩と足を動かす度に、言い様のない疲労感が彼女を襲った。  そして、その厭な感覚は、使用人が足を止めたこの部屋に近付く度に大きくなっていったのだ。  彼女の不調に気付いているのか、いないのか、使用人の女性は城主の待つ部屋の扉に手を掛ける。ギィ、と耳障りな音を立てて開くそれを見つめながら、アイリスは扉の隙間から僅かに漏れ出た冷気に「ひっ……」と情けない声を上げる。  
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