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扉の向こうには、無駄と思える程に広大な部屋があった。恐らくは、王族の誰かが暮らしていたのだろう。
嘗ては天蓋付きのベッドや、壁掛けの儀礼用武器、豪華なるシャンデリアなどが揃っていたであろうその部屋も、今では見る影も無い。ただ部屋の真ん中に、その名残と思われるたった一脚の装飾された椅子が、ぽつりと放置されている。
そして当然、その椅子には、何者かが腰掛けていた。
「御客様をお連れしました」
そう言って深々とお辞儀をする使用人を余所に、アイリスは身動きの一つも取れず、椅子に座る何者かの姿を注視する。
組んだ足の上に置いた書物に視線を落とす、端正なる顔立ちの青年。血が巡っているのかも疑わしい程の、その真っ白な肌が、この薄暗闇の中でも映えている。
「御苦労。すまんが灯りを頼む。御客人には暗かろう」
澄んだ声でそう告げる城主に、使用人ははっと気が付いたように顔を上げる。
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