第一章

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  「失念しておりました。大変申し訳ありません、アイリス様」  本当に申し訳なさそうにそう告げて、使用人は片方の手を高く掲げる。次の瞬間、彼女の掲げたその指の先に、小さなオレンジ色の火が現れたかと思うと、室内が一瞬にして明るくなった。  太陽の下に出たかのようなその眩しさに、目を細めるアイリス。それを余所に、使用人の女性は自らの顔の前まで下げた手に、ふっ、と息を吹き掛けてその指先の火を消し去る。  間違いなく、法術の類いだろう。広大なるこの部屋を一瞬にして、しかも隙間無く照らすなど、ただの人間には到底真似出来ない芸当である。 「さて……我に何の御用かな、若者よ」  視線を落としたままに、城主なる者が問う。まるで作り物のようなその手が、書籍の頁を捲った。 「わ、私はアイリスと申します。魔物の王……『魔王』と呼ばれる存在を探して、この地へとやって来ました。此方の使用人の女性から、貴方ならばその方を御存知かも知れないと聞いて……」 「ああ、それは我のことだな」  彼女の言葉を遮るように、城主の青年がそう告げた。  
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