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即答してみせる城主を前に、アイリスは言葉を失い、その青年の姿を今一度凝視する。
無論、アイリスとて、彼が魔王と呼ばれる存在なのではないかと疑っていた。しかし、薄々は感じていた疑念を、こうも簡単に肯定されては、逆に疑いたくなるものだ。
「どういうことで御座いましょうか、我が主」
室内を満たす厭な静寂を切り裂くように、使用人の女性が問い掛ける。表情無きその顔に、困惑の色は見られない。寧ろ、何かに呆れているようにも見えた。
使用人のその問いに、城主の青年はクックッ、と愉しげな笑い声を溢すと、漸く書籍から目を離してその笑みを使用人の方へと向ける。
「そう怒るな。ちょっとした、ただの戯れだろう。それに、嘘という訳でもないさ。彼女の言う『魔王』という存在は、恐らくは我のことだろう」
「な、何故……」
何故そう言い切れるのか。そう問い掛けようとした彼女の言葉を、青年はやはり遮る。
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