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「嘗て、この城を訪れた人間の男が、我のことをそう呼称したからだ。名は確か、あー、ラムダート、とか言ったか……」
「……! それはもしや、法術士『ラダムント』様のことでは?」
アイリスの言葉に、城主たる青年は思い出したように顔を上げ、異様な迄に光沢のある作り物のような瞳を彼女の方へと向けた。
法術士『ラムダント』とは、嘗て、天に出現した孔を塞ぐ手段を探すべく、闇に支配されたこの領域へと足を踏み入れた壮年の法術士の名前である。
「ああ、そうだ。ラダムントだ。彼は元気にしているだろうか」
「氏は、亡くなりました。故郷に戻った時には、既に瀕死の重症を負っていたそうです」
法術士ラダムントの名を知っているということは、彼が死の間際に告げた『魔物の王』という言葉は、やはりこの青年のことを指しているのだろう。
氏が亡くなったと聞き、青年はさぞ落胆していることだろう。そう考え、アイリスは悲しげに視線を落とす。
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