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「そもそも我は、魔王と自称したことはないのだがな」
「今や世界中の人間が貴方の存在を知っています。打倒しなければならない存在として……」
少女の瞳が、ギラギラと輝く。そんな彼女に対し、猶も余裕のある笑みを浮かべる青年は、わざとらしくはぁ、と溜め息を吐き出した。
「成る程。貴様もその、我を打倒せんとする者の一人、という訳だな」
「ええ、その通りです」
肯定しつつ、アイリスは剣を抜く。銀色に輝く細身の剣の切っ先が、魔王へと向いた。
その様子を見た使用人の女性は、表情無き顔を僅かに崩し、声を溢す。
「アイリス様……」
「口を出すな、使用人よ。魔物で溢れるこんな辺境の地まで、我を倒さんがために赴くような者だ。今更説得に耳を貸すとは思えん」
主の言葉に、使用人は深々と頭を垂れると、巻き込まれぬように扉の辺りまで後退した。それを横目に確認したアイリスは、視線を魔王の方へと戻し、剣を握る手に力を込める。
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